村上春樹のエルサレム賞受賞だそうだ

 特に言うことはないが、エルサレム賞というのを村上春樹が受賞したそうだ。
 特に言うことはないのだけど、どんな賞かさっぱり分からなかったので、一応調べてみたら、受賞者はなかなかのもので、賞金がなんと1万ドル! らしいですよ奥さん! 受賞者のランクからしたら村上春樹は多分不当に低い(俺判定)だが、賞自体に権威はあんまりなさそう。

 え? 1万ドル? 100万円? 村上春樹は、離婚したり、子どもが進学したりしたのかなあ? 旅費は出るのかなあ。とそんなことばかり気になった。村上龍みたいに経済人と対談を1-2回したら稼げるんじゃない?
 とりあえず、村上春樹に受賞して欲しくない人は募金でも募って、「100万円あげるから辞退して」っていう運動をしてみると面白いなあと思いました。

 おっと、なにかこの話題で盛り上がってる皆さんは、「パレスチナ虐殺とかしてる奴らの賞をもらうのか!」か、「褒められたんなら、政治的立場とかどうでもいいじゃない!」の間で議論しているみたいです。

 となると、「どうでもいいじゃない!」派の方もパレスチナでの問題とかは悪いに決まってるけど、春樹きゅんにはそれ関係ないじゃない!ってことで、「悪い」ことには異論はない模様。さらに、それから免罪されて当然じゃない! 春樹きゅんなんだから! みたいな感じか。

 もちろんこれは欺瞞ではあるんだけど、この欺瞞は、春樹ファンの欺瞞なのかと言われれば、俺の目から見たら「え? 大昔からそんな人でしょ?」年か言いようがない。

 というか、「彼の政治的態度として賞を受賞した」という視点がないのに驚きを感じるんだけど、その辺ファンの方々どうでしょうか。

 俺は、そもそも村上春樹のことを全く、さっぱり、一切、好きではないのだが、この一連の議論の中で、「湾岸戦争」での村上春樹の採った立場とか、「アンダーグラウンド」内での立場について言及されたものがさっと見た限り書かれていない。

 俺は基本的に村上春樹個人も作品も「村上龍なみ」に評価している人間なので、どうしても嫌い前提で話をするが、湾岸戦争の時の立場は当時の政治状況から見て適切なものではあった。
 あらましはこんなかんじか? なんか湾岸戦争がおこったあと、いとうせいこう坂本龍一あたりの新人類の旗手とか昭和軽薄体とかいってたひとたちが急に文学者による非戦宣言(だっけ?)みたいなものをだして、全ての戦争に反対を表明するということがあり(いつまでも記号と戯れてちゃダメだ! とか…。戯れてたのは自分たちだけです)、そこで非戦宣言に賛同するように要請された村上春樹はこれを拒否。文学者は文学でその考えを表明すればよいとか言ったと思う。それをうけていとうせいこうとかが罵詈雑言を(ええと、政治から自由と思うな! とかその態度が戦争を容認している、とか)浴びせたが、華麗にスルーした。ここで、新人類の書き手と言われていた一群の人々は、結局思想的に見るべきものはないただの坊ちゃんだったという限界があらわになった。

 んで、オウム真理教事件が起きてしばらくしてから、村上春樹は「アンダーグラウンド」っていう、何をいいたいのかわかんないけど市民が理由なく死ぬのはかなしい的なルポ文学?を発表し、「あれ? 織り込んでたんじゃないの?」と俺を驚愕させた。従来の右翼左翼に回収できなかったから織り込めてなかったのかな。とまれ「そんな時代に生きるぼく」的なお話だった。その後、たしかバモイドオキ神を書いた子どもは「透明なぼく」とか書いてて、「春樹っぽい!」と(俺に)思われたりといってことが起きたが、村上春樹はそれには沈黙を守り「小確幸」とか言ってたっけ。つまり、政治的に沈黙しつつキャリアを積み重ねてきたわけ。政治的に語る場面では一貫して「そんな時代に生きるぼく」を出してきて、わかりやすい政治的主張をしなかった。
 この政治的とも文学的ともつかない不思議な態度こそ、村上春樹の政治性そのものなんじゃないかしら。今回も彼は熟考した結果、「賞は『賞』という意味のみをうけとり、個々の政治は私の語るべきことではないのだから、語らない」という自分ルールを適用したんじゃないか? 受賞を辞退するというのは明確に政治的だから。
 
 こーいう考え方って優れて戦後民主主義的よねーとなんとなく俺は思って、受賞を聞いても驚かなかったんだけどどうだろう。そんな戦後50年?60年くらいしかない思想を、めちゃラジカルな現場に持ち込むのは暴挙というか、スゲーなとは思うけど。ええと、アニメ「図書館戦争」を見た感じに近い。
 そもそも、彼の作品自体も日本風味の近代リアリズム志向小説を二葉亭四迷とかそういう格闘の歴史の系統ではなく、「翻訳調の文章」という「直輸入でっせ!」というなんていうかジャパニメーションっぽい売りなわけで。

 なので、この受賞が「がっかりだ!」と言う村上ファンがいたら、それは村上春樹作品をちゃんと読んでないんじゃないかな、と思った。「そんなのカンケーないよ」は村上ファンとして妥当な態度だと思う。そしてそれに石をなげるのも当然。
 村上春樹エルサレム賞を受けることで、受賞候補に挙がっていたと言われるノーベル賞がどうなるかはわかんないけど(いい影響はないんじゃないかな…どうなんだろう)、仮にこのエルサレム賞を受賞したことでノーベル賞を逃しても、「賞を『賞』と言う意味だけで受け取る」という意思の貫徹で村上春樹の思想を自身で表現してるんじゃないのかなあ。

 彼の折り込み済みの理解では、おそらく「そもそも、政治的でない賞などないのである。その受賞を今まで受けてきたの自分としては、元々政治的な意図のある賞をこれからも受ける」ということではないかと。たぶん、2ちゃんねる文学賞でもうけるよ、この人。賞金はモリタポでどうかな。

 あれ?なんか尊敬できる人のように思えてきた。どちらにしても小説はつまんないと思うので、どんな賞であれ、俺は受賞には反対です。ってことでまとめておくかな…。なんだこの文章。

 とりあえず、万が一村上春樹エルサレムでの受賞の弁で、パレスチナ問題を語り、授賞側を非難した場合、俺はそれを「村上春樹の転向」としてとらえるだろう。

 何か思いついたんだが、俺の考える村上春樹の思想の気持ち悪さは、この曲で俺が感じる気持ち悪さに相通じるものがある
http://jp.youtube.com/watch?v=CDMuIewufbE